ファッション指南とファッション啓蒙
はてなブックマーク経由で読んだこのエントリ。
Kammy+'s spaceブログ版: 【レビュー】『電車男スタイリング・バイブル』
私もいろいろに思うところあって、でも件の本の実物を読んでないので、言っていいのかどうなのか、などと悶々としていたところに、もう一つ気になる別ブログの記事を読んだので、見切り発車気味に書いてみることにします。
で、気になったもうひとつの記事というのがこちら。
On Off and Beyond: シリコンバレーの男のおしゃれはぺペロンチーニ
外からの評価はともかくとして、本人の志向的にはあまりファッションに頓着しないであろう*1シリコンヴァレー住人に向けられたファッション指南。そこだけ見ると『電車男スタイリング・バイブル』と同じ方向性を持つかにみえるけど、この記事に嫌悪感や抵抗を抱く人はそう多くないんじゃないかとさそうな気がします。*2
渡辺氏の記事のほうが内容がシンプルで、用語もファッションの専門用語は使わず「シャツ」「パンツ」といった誰でもわかるものを使用しているなど、ポイントはいくつもあるのですが、中でも最大のものが「読み手の価値観に立ち入ることなく、ただ純粋なルールのみを提示するにとどめている」ことだと思います。
服の素材にこだわる。
シャツは番手の高いものを選択。織り目が詰まってるヤツ。この手のシャツは簡単に300ドル以上しますが。
重要なのは良い素材の製品を選ぶことだ、というシンプルな主張。価格のことは付随的な情報であって本筋ではない。さらに、読み手が「ファッションに金を使うこと」を是とするか非とするかはまったく問われておらず、ただ「どんな価値観を持っていようと、このルールを採用することでおしゃれに見られる」という主張が示されているにすぎません。
翻って、オタクから反感を受けるタイプのファッション啓蒙主張の場合。*3
曰く「あなたたちはファッションを苦行と思っているようだがそれは違う、ただ気軽に楽しめばいいのだ」「服に高いお金をかけるのはばかばかしいという意見があるがそれは違う、高いもののほうが長く着られ便利に使えるので、最終的にはそのほうが得なのだ」。
思うに、この「それは違う」にみんな引っかかりを覚えるんじゃないんでしょうか。ファッションに関する相手の価値観を否定し、破壊することに主眼をおいた主張。まずそれを否定しないことには先に進めないとでも言わんばかりです。
そしてその主張を受け止めるオタク層はといえば、数ある人間のタイプの中でも最も「自分なりの価値観」を重要視する層です。自分の価値観は最後の砦であり、それを変えることに対しては、魂を売り渡すような、自分が自分でなくなるかのような抵抗をおぼえます。繰り返される「ファッションを楽しむつもりはない、それよりも馬鹿にされずに済む最低限の身だしなみを」という主張はつまり「自分の価値観を変えるつもりはない」という宣言なのです。そのことに思い至らなければ、議論は平行をたどるばかりです。